〜意外と知らない「不使用の理由」と今後の付き合い方〜
<<設備設計視点のコラム>>
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日本の住宅設備の中で、世界にも誇れる代表格といえば「温水洗浄便座」でしょう。
日本国内の温水洗浄便座の普及率は80%以上とされていますが、
実際の使用率は6〜7割程度に留まるという調査結果もあります。
(一般社団法人 日本レストルーム工業会データより)
住宅業界に携わる者として、私はこれまで数多くのトイレリフォームに関わってきましたが、
現場でしばしば耳にするのが、「ついているけど使っていない」という声です。
これほどまでに普及している設備なのに、なぜ使われないケースがあるのでしょうか?
そして私たちはそれをどう捉え、どう提案していくべきなのでしょうか?
■ 「使わない」理由は機能ではなく"感情"
現代の温水洗浄便座は、清潔・快適・省エネの三拍子が揃った高性能製品です。
それでもなお、使われない背景には、「衛生面が気になる」「なんとなく抵抗がある」
「故障が心配」といった、感覚的・心理的な要因が根強く存在します。
これは、設備としての性能が十分であっても、「使い方に慣れていない」
「説明を受けたことがない」など、生活者との接点の少なさに起因していると感じます。
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■ リフォーム現場では「提案の仕方」がカギ
私が提案時に大切にしているのは、「高機能です」と伝えることではなく、
実生活にどう役立つかを具体的に伝えることです。
たとえば、
「冬場に便座が冷たくて驚いた経験、ありませんか?」
「紙でこするより水で流したほうが肌にはやさしいんですよ」
「高齢になったとき、自動で洗ってくれるのは本当に助かります」
こうした視点で話すと、お客様の表情が変わるのを感じます。
単なる設備ではなく、生活の質(QOL:クオリティ オブ ライフ)を高める道具としての
イメージが伝わるからです。
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■ これからの時代、「使わない前提」では設計できない
2025年現在、温水洗浄便座は「あるのが当たり前」の時代です。
しかし将来的には、それが単なる付属機能ではなく、住宅の衛生基準やバリアフリー設計の
一部として位置付けられる日が来るかもしれません。
特に高齢者住宅や多世帯住宅においては、拭き取り動作が難しい場面も出てきます。
そういった将来を見据えれば、今「使わない」と思っていても、備えておく価値がある設備
だと私は考えています。
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■ 最後に:使うかどうかは自由。ただ、知った上で選んでほしい
私たち専門家が果たすべき役割は、「無理に設置」することではなく、
正しい情報と選択肢を提示することです。
温水洗浄便座に限らず、どんな設備も"使われて初めて価値が生まれる"ということを、
日々実感しています。
トイレは毎日何度となく使う場所です!
「使っていないから要らない」と切り捨てる前に、
「なぜ使っていないのか?」「必要となるときはないのか?」を一緒に見直してみませんか?
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