リフォームの基礎知識と費用の相場
バリアフリーリフォームの工事内容と費用相場
ご家族が住み慣れた自宅で暮らすにあたって、しだいに日常生活で不便を感じるようになったり、転倒によるケガが心配になったりすることがないでしょうか。そんなときは、リフォーム工事で住まいをバリアフリー化する選択肢があります。このように、住まいで安心して暮らすためにバリアフリー改修工事を行うことを、「バリアフリーリフォーム」と呼びます。
バリアフリー改修の内容は、手すりの設置をはじめとした小規模な工事から、間取りの変更をともなう大規模な工事までさまざまです。この記事では、バリアフリーリフォームの内容や費用、利用できる支援制度までご紹介します。ご家族が安全に暮らせる住まいを作るために、ぜひバリアフリー工事を検討してみてください。

バリアフリーリフォームの目的と重要性
なぜバリアフリーリフォームを行う必要があるのでしょうか。初めに、バリアフリーリフォームに関する基礎知識として、目的や重要性をお伝えします。
- バリアフリーリフォームの目的
バリアフリーリフォームの目的は、家に住む人が安全かつ快適に暮らせる住環境を確保することです。現在は高齢者やケガ・病気の人がいない場合も、家族の将来に備えてリフォームに取り組むケースも珍しくありません。長い目で見て安心できる住まいを作ることが大切です。
- バリアフリーリフォームが重要な理由
近年バリアフリーリフォームが注目されている背景として、住まいにおける高齢者の事故の多さが挙げられます。「高齢社会白書」の公表データによると、65歳以上の高齢者のうち77.1%が住宅内で事故に遭っており、なかでも居室や階段での事故が多い傾向が見られます。こうした家屋での事故を未然に防ぐために、バリアフリーリフォームが重要視されているのです。
バリアフリーリフォームの主な工事内容
続いて、バリアフリー化の具体的なリフォーム内容を解説します。居住にあたりどんな配慮が必要か、どういった危険が想定されるかを考えて、住まいの状態を改めて確認してみましょう。
手すりの設置
住まいに手すりを設置して、移動しやすさを確保するとともに、転倒事故を防止します。設置する場所は、トイレの出入口や便座の付近、廊下の段差前や部屋の出入口などです。使う人の背丈や動作を考慮して、しっかりと握りやすい形状の手すりを採用しましょう。1本あたり数万円からリフォームできます。
段差の解消
住まいのさまざまな箇所にある段差をスロープの設置によって解消し、足腰への負担を軽減します。段差がなくなることでつまずきのリスクが減り、さらには車椅子でも移動しやすくなります。具体的には、玄関の段差、廊下と部屋の段差、浴室の段差などが対象です。
滑りにくい床材への変更
床材を滑りにくい材質に変更することで、転倒によるケガを予防します。特に注意したいのは、浴室や洗面所をはじめとした水回りや、雨などで濡れる可能性がある玄関です。滑り止め効果があるノンスリップ加工が施された床材を選ぶと良いでしょう。
ドアの変更
開き戸が出入りの動作の支障となりやすい場合は、引き戸に交換するリフォーム工事が有効です。引き戸は車椅子でも開閉しやすく、出入口付近のスペースを広めに確保しやすくなります。ただし、引き戸を設置するには扉を引き込む場所が必須で、間取りによっては設置できないことがあるのが注意点です。
水回りの設備の取り替え
水回り設備をバリアフリー対応のものに交換して、安全かつ快適に利用できる状態にします。例えば、またぎやすい高さの浴槽に交換したり、洋式トイレに交換したりすることで、足腰への負担を軽減できるでしょう。設備が変わると日々の入浴や排せつが楽になります。
温度差の解消
暖房の設置などの対策で住まいの温度差を解消し、ヒートショックのリスクを軽減します。ヒートショックとは、急激な温度差によって生じる血圧の乱高下を指します。特に65歳以上の高齢者は影響を受けやすいため注意が必要です。例えば、浴室や脱衣所に暖房を設置することで、入浴時の温度差による事故を避けやすくなります。
間取りの変更
間取りの変更によって利便性を向上させたり、ヒートショックのリスクを軽減したりします。寝室・居室とトイレの距離を近づけたり、生活に必要な設備を1階部分にまとめたりすると、より暮らしやすくなるでしょう。また、冬場は温度の低い廊下を経由することでヒートショックが懸念されるため、間取り変更で改善するようおすすめします。
バリアリフォームを上手に進めるポイント
バリアフリーリフォームを行う場合、以下のポイントを押さえておくとスムーズに工事の計画を立てやすくなります。快適に暮らせる空間づくりのためにぜひ参考にしてみてください。
リフォーム箇所は予算と優先順位を考慮して決める
バリアフリーリフォームは工事内容によって費用に大きな差が出る可能性があります。予算に限りがある場合は、必要性の高い箇所を優先して、部分的にリフォームを行うと良いでしょう。例えば、階段・玄関・トイレ・浴室など使用頻度の高い場所に限定したり、現状で必要な工事に絞ったりするのが有効です。
車椅子移動を考慮した通路幅にする
家庭内で車椅子を利用する場合は、車椅子移動を想定して通路や出入口を拡張する必要があります。車椅子でも余裕を持って通れることや、方向転換ができることなどを考慮して計画を立てましょう。
日常生活を1階で済ませられるようにする
足腰が弱ると階段の上り下りが難しくなるため、1階部分のみで日常生活が完結すると理想的です。あるいは、ホームエレベーターを設置して移動の負担を軽減する方法もあります。
バリアフリーリフォームの実績が豊富な業者に依頼する
バリアフリーリフォームは一般的なリフォームとは異なり、住む人の安全性や介助のしやすさまで重視しなければなりません。バリアフリー化の実績が豊富で、安全かつ快適な生活を実現するための提案を得意とする業者を選びましょう。
工事計画を早めに立てる
バリアフリーリフォームの工事計画は、実際にバリアフリー化が必要となる前に、余裕をもって検討しましょう。足腰の衰えを感じ始めたときや、ライフステージが変化したタイミングで、将来に備えて早めに行動することが大切です。
介護される側とする側の両方の使いやすさを考慮する
バリアフリーリフォームでは、介護される側はもちろん、ご家族やホームヘルパーなどの介助者がスムーズにサポートできるよう配慮することも重要です。介助に必要なスペースをしっかりと確保した上で動線を設計しましょう。
利用可能な補助金・助成金・減税制度を事前に調べておく
バリアフリーリフォームで支援制度を利用するには、指定された条件を満たすことや、必要書類を用意することが必須です。そのため、事前に詳細を確認しておきましょう。具体的な補助金・助成金・減税制度は後の見出しでご紹介するため、ぜひ併せてチェックしてみてください。
【工事箇所別】バリアフリーリフォームの費用相場
バリアフリーリフォームの工事箇所別に費用相場をご紹介します。予算の範囲でどんな工事が可能なのか、金額面も確認しておきましょう。
浴室のバリアリフォームの費用相場
お風呂場は足元が滑りやすく、転倒による事故が懸念されます。手すり設置や段差解消により、転倒の原因を解消しておくと良いでしょう。また、温度差によるヒートショックのリスクを避けるために、浴室内に暖房を設置するのも一つの手です。
工事内容 | 費用相場 |
手すりの設置 | 3万~5万円 |
段差の解消 | 5万~25万円 |
滑りにくい床材への変更 | 5万~20万円 |
ドアの変更 | 3万~20万円 |
暖房の設置 | 10万~15万円 |
浴室の拡張 | 15万~250万円 |
トイレのバリアリフォームの費用相場
トイレでは立ち座りの動作を安全に行うために手すりを設置すると良いでしょう。場合によっては、便器や便座の高さを調整して動作の負担を軽減することも可能です。また、居室や寝室から離れた場所にトイレがある場合は、間取りを変更する選択肢もあります。
工事内容 | 費用相場 |
手すりの設置 | 5万~10万円 |
段差の解消 | 2千~10万円 |
ドアの変更 | 5万~20万円 |
和式トイレから洋式トイレへの変更 | 15万~50万円 |
補助便座の設置 | 5万~10万円 |
トイレの場所移動 | 30万~60万円 |
玄関のバリアリフォームの費用相場
玄関周りは、スロープによる段差解消や引き戸への変更によって、家にあがる際の動作の負担を軽減できます。玄関ドアを拡張して出入口を広めに取っても良いでしょう。また、ベンチを設置すると靴を履き替える動作が楽になり、荷物置きとしても役立てられます。
工事内容 | 費用相場 |
手すりの設置 | 3万~13万円 |
スロープの設置 | 5万~45万円 |
ベンチの設置 | 2万~7万円 |
ドアの変更 | 20万~60万円 |
ドアの拡張 | 10万~15万円 |
廊下・階段のバリアリフォームの費用相場
廊下や階段は住まいの動線となるため、ゆったりとしたスペースを確保するのが望ましいといえます。必要に応じて廊下幅や階段幅を拡張すると、余裕を持って移動しやすくなります。また、急勾配の階段は転倒によるリスクが高いため、勾配の変更を検討すると良いでしょう。
工事内容 | 費用相場 |
手すりの設置 | 6万~15万円 |
段差の解消 | 3万~15万円 |
廊下の拡張 | 40万~150万円 |
階段の幅や勾配の変更 | 50万~100万円 |
階段の滑り止め設置 | 1万~3万円 |
キッチンのバリアリフォームの費用相場
キッチンに改良を加えることで、家事の負担を軽減しながら料理がしやすくなります。高い場所にある物が取りづらいなら、電動昇降棚を設置するのがおすすめです。また、ガスコンロをIHクッキングヒーターに変更すると、掃除の負担を減らせます。
工事内容 | 費用相場 |
電動昇降棚の設置 | 10万~60万円 |
食器洗い乾燥機の設置 | 10万~15万円 |
IHクッキングヒーターへの変更 | 30万~40万円 |
システムキッチンへの変更 | 40万~80万円 |
洗面所・脱衣所のバリアリフォームの費用相場
洗面所・脱衣所などの水回りでは、滑りにくい床材を採用して転倒防止の対策を講じることが大切です。また、スムーズな介助や車椅子利用のために、空間を広めに取るのも有効だといえます。スペースの拡張や引き戸への変更も視野に入れましょう。
工事内容 | 費用相場 |
滑りにくい床材への変更 | 5万~10万円 |
車椅子用洗面台の設置 | 30万~50万円 |
洗面所の拡張 | 20万~35万円 |
ドアの変更 | 20万~40万円 |
寝室のバリアリフォームの費用相場
寝室のリフォームでは、足腰が弱い方がベッドまで安全に移動できるよう、手すりを設置しましょう。また、寝起きの転倒のリスクに備えて床材を滑りにくいものに変更するのもおすすめです。ほかにも、新たに照明を設置するにあたり、コンセントの増設が必要となることもあります。
工事内容 | 費用相場 |
手すりの設置 | 1万~2万円 |
ドアの変更 | 10万~15万円 |
滑りにくい床材への変更 | 5万~10万円 |
コンセントの増設 | 5千~2万円 |
バリアフリーリフォームに利用できる補助金・助成金・減税制度
バリアフリーリフォームでは、以下の支援制度を利用できる可能性があります。ご自身が対象者に該当する場合は、ぜひ制度を活用するようおすすめします。
介護保険法にもとづく住宅改修費の支給
要支援・要介護の認定を受けた方の住宅改修では、介護保険から工事費用の一部補助を受けられます。上限20万円までの対象工事を、所得に応じて1~3割の自己負担で行えます。事前にケアマネージャーとの相談が必須です。
長期優良住宅化リフォーム推進事業
「長期優良住宅」へのリフォームで、1戸あたり上限100~250万円の補助を受けられます。長期優良住宅とは、耐震や省エネの性能が一定の基準を満たした住宅のことです。バリアフリー改修に対応可能であることも認定基準の一つになっています。
地方自治体の補助金・助成金制度
お住まいの市区町村が実施する補助金・助成金制度を利用する方法です。例えば東京都では、千代田区の「高齢者福祉住環境整備」、中央区の「高齢者住宅設備改善給付事業」、新宿区の「高齢者自立支援住宅改修及び日常生活用具給付事業」が挙げられます。
所得税の控除
住宅のバリアフリーリフォームを行って一定の要件を満たす場合は、所得税の控除を受けられる可能性があります。現行の制度を確認してみましょう。参考までに令和5年12月31日までは、「投資型」または「ローン型」の特例措置が設けられていました。(※2024年1月現在)
固定資産税の控除
新築後10年以上の住まいに一定の要件を満たすバリアフリーリフォームを行った場合、工事が完了した翌年度分の固定資産税のうち3分の1が減額となります。適用期限は令和6年3月31日までです。市区町村の申請方法に従って申請手続きを行いましょう。(※2024年1月現在)
バリアフリーリフォームを行う際によくある質問
バリアフリーリフォームに関する質問と回答をご紹介します。リフォーム会社の選び方や、工期や費用の目安についてお伝えします。
バリアフリーリフォームの施工業者はどう選べば良い?
バリアフリーリフォームでは、バリアフリー化や介護に関する豊富な知識を有する業者を選ぶことが大切です。リフォーム業者のWebサイトをチェックして、実績や評判を確認しましょう。複数の業者から相見積もりを取り、料金や工事内容を比較すると、適切な判断がしやすくなります。また、介護認定を受けている場合は、ケアマネージャーに相談するようおすすめします。
バリアリフォームにかかる工期の目安は?
バリアフリーリフォームの工期は、工事の規模によって大きく異なります。例えば、手すりの設置やドアの変更といった小規模な工事なら、半日~1日程度で完了します。一方、浴室全体の工事や間取りの変更をともなう大規模な工事では、5~7日以上の日数が必要です。
一軒家をまるごとバリアフリーリフォームする際の費用の目安は?
一戸建ての住宅全体をバリアフリーリフォームする場合、費用の目安は数百万円~1,000万円となっています。金額は工事内容によって大きく異なるものの、一般的には500万~600万円程度がかかることを押さえておきましょう。
※助成金や補助金、控除等の金額や対象期間、対象工事は各団体のホームページなどでご確認ください。また、費用はあくまで目安となりますので、実際の費用はリフォーム施工店へご相談ください。